大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8023号 判決
原告 株式会社整理回収機構
右代表者代表取締役 鬼追明夫
右代理人支配人 中島馨
右訴訟代理人弁護士 藤木久
同 宮島繁成
同 近藤剛史
被告 佐藤龍治
被告 阿南國喜
右両名訴訟代理人弁護士 瀧賢太郎
同 杉山博夫
被告 佐藤龍彦
被告 佐藤彰彦
右訴訟代理人弁護士 桑原豊
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して、金二億二八四〇万円及びこれに対する平成六年五月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告佐藤龍治、同佐藤龍彦及び同佐藤彰彦は、原告に対し、連帯して、金七六〇九万九八一〇円及び内金七二〇九万九八一〇円に対する平成七年三月二三日から、内金四〇〇万円に対する平成八年一〇月三一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告佐藤龍治(以下「被告龍治」という。)、同佐藤龍彦(以下「被告龍彦」という。)及び同佐藤彰彦(以下「被告彰彦」という。また、右三名を合わせて「被告龍治ら」という。)が理事長又は理事を務めていた三福信用組合(以下「三福信組」という。)は、平成六年五月一八日に有限会社サンライズ(以下「サンライズ」という。)に対して三億一五〇〇万円の貸付け(以下「甲貸付け」という。)を、平成七年三月二三日に株式会社オズコーポレーション(以下「オズ」という。)に対して一億円の貸付け(以下「乙貸付け」という。)を、及び平成八年一〇月三一日にオズに対して四〇〇万円の貸付け(以下「丙貸付け」という。)を、それぞれ行い(甲貸付け、乙貸付け、丙貸付けを併せて、以下「本件各貸付け」という。)、また被告阿南國喜(以下「被告阿南」という。)は、当時のサンライズの代表取締役として甲貸付けを受けたところ、本件各貸付けは、いずれも回収の見込みがないのに行われた違法な貸付けであったから、三福信組は、被告龍治らに対しては善管注意義務違反(中小企業等協同組合法三八条の二、四二条、商法二五四条、民法六四四条)及び不法行為(民法七一九条、七〇九条)に基づく損害賠償請求権を、被告阿南に対しては不法行為(民法七一九条、七〇九条)及び有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償請求権を、それぞれ有しており、原告は三福信組から右各債権の譲渡を受けた等として、
1 被告らに対し、甲貸付けについての、被告龍治らの善管注意義務違反に基づく損害賠償請求及び被告阿南に対する有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償請求として、又はこれと選択的に、被告らの共同不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して甲貸付けに係る三億一五〇〇万円の内金二億二八四〇万円及びこれに対する善管注意義務違反行為又は不法行為の日(甲貸付けを行った日)である平成六年五月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金
2 被告龍治らに対し、乙貸付及び丙貸付けについての、被告龍治らの善管注意義務違反に基づく損害賠償請求として、又はこれと選択的に、被告龍治らの共同不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して七六〇九万九八一〇円及び内金(乙貸付けに係る一億円のうち未払残額)七二〇九万九八一〇円に対する善管注意義務違反行為又は不法行為の日(乙貸付けを行った日)である平成七年三月二三日、内金(丙貸付けに係る)四〇〇万円に対する善管注意義務違反行為又は不法行為の日(丙貸付けを行った日)である平成八年一〇月三一日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。
二 争いのない事実等(証拠により容易に認定することができる事実を含む。)
1 当事者等
(一) 被告龍治は、昭和三三年五月二二日に三福信組の理事長に就任し、以後平成八年一一月八日まで同理事長の地位にあった者であり、被告龍彦は、昭和四九年一〇月二九日に三福信組の常務理事、平成元年五月一三日に同組合の専務理事に就任し、以後平成八年一二月二五日まで同専務理事の地位にあった者であり、被告彰彦は、昭和四八年五月二四日に三福信組の常務理事に就任し、以後平成八年一一月八日まで右常務理事の地位にあった者である。
一方、三福信組は、大阪府知事が、平成九年四月一五日にした解散命令により、現在、清算法人となっている。(甲三、四)
(二) 被告阿南は、昭和六一年五月二六日、サンライズの代表取締役に就任し、以後現在まで右代表取締役の地位にある者で、被告龍彦の妻の実父である。
なお、サンライズの現在の出資者は、被告阿南、落合庄三郎(被告龍彦と懇意な司法書士)、西村幸男(三福信組の有力取引先)、西田正一(被告龍彦の事実上の部下)、榎智康(被告龍治らと懇意な税理士)及び金谷康夫(三福信組の顧問弁護士)である。
また、サンライズの従業員は、西田正一(サンライズの取締役)だけである。同人は、もともとは病院への医薬品販売業者として三福信組から融資を受けていた者であり、その後、被告龍彦から誘いを受けてサンライズで働くようになった。
サンライズは、現在、事実上倒産状態になっている。
(三) 落合正和(以下「落合」という。)は、平成四年七月から平成五年一二月にかけて、三福信組から合計三億八五〇〇万円の貸付けを受けた上(全信組連の貸付金一億円を含む。)、大阪府豊中市内の土地を購入して賃貸マンション「オズコート」を建築した。そして、落合は、右「オズコート」の建築を計画していたころの平成四年九月一日、不動産仲介及び管理等を目的とするオズを設立した上、オズの代表取締役に就任した。
2 甲貸付けの経緯等
(一) オズは、兵庫県多紀郡篠山町の山林(合計二万二一三〇平方メートル、以下「本件山林」という。)を造成し、宅地として不動産業者に一括売却する計画を立てた(以下「本件計画」という。)。
(二) 三福信組は、平成六年五月一八日、本件計画を実行するため、サンライズに対し、次のとおりの貸付け(甲貸付け)をした。(甲一六の1)
貸付目的 土地購入代金及びその他諸費用
貸付金額 三億一五〇〇万円
弁済期限 平成七年五月一七日(ただし、平成六年一一月一七日に一億五〇〇〇万円を内入弁済する予定)
利息 年七・五パーセント
(三) サンライズは、同日、オズに対し、右(二)記載の貸付金三億一五〇〇万円をもって、次のとおりの貸付けをした。(甲九七)
貸付金額 三億円
弁済期限 平成七年五月一七日(ただし、平成六年一一月一七日に一億五〇〇〇万円を弁済する予定であった。)
利息 年一〇パーセント(ただし、別途手数料三〇〇〇万円)
(四) サンライズは、同日、右(三)記載の貸付けについて、オズから、本件山林につき、被担保債権額を三億円とする抵当権の設定を受け、同日、その旨登記をした。(乙九)
一方、オズは、大勢興業株式会社(以下「大勢興業」という。)から、同日、本件山林を買い受け、その旨の登記をした。(甲三四の1ないし12)
(五) 甲貸付けの現在における残金は、三億円である。一方、原告は、後記7のとおり、平成九年四月二日、サンライズから本件山林について、転抵当権を取得しているが、本件山林の平成一〇年五月一五日現在の時価は、七一六〇万円であるから、仮に本件山林を換価することができたとしても、他にサンライズには資産がないことから、回収不能額は、二億二八四〇万円を下らない。(甲一四の1、五九、弁論の全趣旨)
3 乙貸付けの経緯等
(一) 三福信組は、平成七年三月二三日、オズに対し、次のとおりの貸付け(乙貸付け)をした。(甲一八の1)
貸付目的 開発費用
貸付金額 一億円
弁済期限 平成七年五月二六日
利息 年八・五パーセント
(二) 乙貸付けの現在における残金は、九七九〇万円であり、オズから回収することは不可能となっている。ただし、乙貸付けのうち二五八〇万〇一九〇円は、オズ又は落合に対する既往貸付金の利息として、三福信組が回収しており、右の残金九七九〇万円から右の二五八〇万〇一九〇円を控除した残額である七二〇九万九八一〇円が、原告において本訴で請求している金額である。(甲一四の2、弁論の全趣旨)
4 大阪府知事の業務改善命令
大阪府知事は、平成八年二月二九日、三福信組に対し、新規融資については大阪府商工部金融課との事前協議をすること等を内容とする業務改善命令(以下「本件業務改善命令」という。)を発した。(甲一)
5 丙貸付けの経緯等
(一) オズは、本件計画の対象となった山林に付加価値を付けるため、温泉の掘削を企図し、その結果、オズは、掘削業者に対して温泉試掘代金一二〇〇万円を、額面四〇〇万円の約束手形三通で支払うこととし、その決済資金を三福信組が融資することとなった。
(二) 三福信組は、平成八年一〇月三一日、オズに対し、次のとおりの貸付け(丙貸付け)をした。(甲二〇)
貸付目的 温泉掘削の支払資金
貸付金額 四〇〇万円
弁済期限 平成八年一一月二〇日
利息 年八・五パーセント
(三) 丙貸付けの現在における残金は、四〇〇万円であり、オズから回収することは不可能となっている。(甲一四の2、弁論の全趣旨)
6 三福信組から株式会社整理回収銀行への事業の全部譲渡
株式会社整理回収銀行は、平成九年三月三日、三福信組との間で、同年四月二一日をもって三福信組の事業の全部を譲り受ける旨の事業譲渡契約を締結し(以下「本件事業譲渡契約」という。)、三福信組は、平成九年四月二二日の大阪新聞において右事業の全部譲渡を公告した。(甲六、七)
7 サンライズの三福信組に対する転抵当権設定
三福信組は、平成九年四月二日、サンライズから、右2(四)記載の抵当権について、転抵当権(以下「本件転抵当権」という。)の設定登記を行った。(甲三四の1ないし12)
8 三福信組から株式会社整理回収銀行への債権譲渡
三福信組は、平成一一年三月二六日、株式会社整理回収銀行に対し、被告ら本訴請求に係る損害賠償請求権を譲渡し(以下「本件債権譲渡契約」という。)、同月二七日、被告らに対し、右債権譲渡の通知をした。(甲七〇の1ないし4、七一の1、2)
9 原告の訴訟承継
株式会社整理回収銀行は、平成一一年四月一日、原告を存続会社とする合併をした。
三 争点
1 被告龍治らが行った甲貸付けを決定した行為及び被告阿南が甲貸付けに応じた行為は、違法なものといえるか。
(一) 原告
甲貸付けは、次の事実があるから、違法なものであり、したがって、被告龍治らが甲貸付けを決定した行為及び被告阿南が甲貸付けに応じた行為は、違法である。
(1) 甲貸付けは、被告龍治らが三福信組のオズに対する融資限度額の問題から、一旦サンライズに貸付けをした上で右貸付金からオズに融資をすることを目的として行ったものであり、いわゆる迂回融資であり、被告阿南も、甲貸付けが迂回融資の一環として行われることを認識して、甲貸付けに応じた。
(2) 甲貸付けが行われた当時、オズ及び落合は無資力であった。
<1> オズは、落合の一人会社であり、経済的に同体である。
<2> 落合には正業がなく、その所得からの返済を期待することができない。
<3> 落合は、三億八五〇〇万円もの借金を負い、かつその返済が不能となっていて、事実上破産していた。
<4> オズは、平成四年九月一日に設立された無資力の零細企業であるが、赤字が連続し、平成六年度には二五八万九七九一円の累積損失を計上していた。
(3) 事業計画及び融資審査が杜撰であった。
<1> 甲貸付けが行われた平成六年ころは、深刻な不動産不況の最中であり、しかも本件山林は流通性に乏しく、転売の見込みが極めて薄かったから、本件計画には根本的な危険が内在していた。
特に、仮に本件山林の購入希望者がいたとしても、銀行等の融資がなければこれを購入することは到底できないが、当時の金融機関は、不動産融資に極めて慎重であったから、本件計画の実現性には強い疑問があった。
<2> それにもかかわらず、三福信組は、サンライズ又はオズから、購入予定者が発行した法的拘束力のある購入確認書類を徴求することも、購入予定者である株式会社伊藤ショウ(以下「伊藤ショウ」という。)の資金調達について調査をすることも、まったくなかった。
<3> 他の金融機関では、本件計画のような杜撰な案件に、三福信組のような巨額の融資をするはずがなかった。
<4> 本件山林については、本件の前に、大勢興業が本件計画と同様の計画を立てたが、採算性や転売等の目処が立たず、右計画を途中で放棄した。
<5> 落合やオズには、宅地開発の経験やノウハウがなかった。
<6> 貸付け金額が三億円又は三億一五〇〇万円と巨額であった。
(4) 甲貸付けは、無担保で行われた。
なお、本件転抵当権は、被告龍治らが三福信組の理事長等の地位にあった当時にサンライズとの間で設定契約が締結されたわけではなく、被告龍治らが右地位を退任した後の三福信組の新経営陣が事後的に得た担保であるに過ぎず、本件転抵当権が存在することをもって、甲貸付け時に担保があったものとはいえない。
(5) 協同組合による金融事業に関する法律六条一項、銀行法一三条等により、三福信組は、出資金、法定準備金、退職給与積立金、特別積立金、貸倒引当金及び退職給与引当金の合計額の二〇パーセントを超える額を同一人に融資することができない(以下「大口融資規制」という。)。さらに、大阪府信用組合指導要領(甲二一)においても、同一人に対する貸出金の限度額は、出資の額、協同組合による金融事業に関する法律施行令二条一号に規定する組合員勘定に属する準備金の額及び同条二号に規定する引当金の額の合計額の一〇〇分の二〇に相当する金額と四億円とのいずれか低い額であるとされ、大口融資規制の厳守が指導されている。これによれば、甲貸付けが行われた平成六年五月一八日当時の、三福信組のオズに対する与信限度額は二億四六六〇万六五一四円であるから、甲貸付けは大口融資規制に違反していた。
また、大口融資規制の適否の審査においては、債務者と経済的に一体関係がある者も含めて判断され、落合とオズは、経済的一体関係があるから、両者への累積融資残高を合算した上で、右規制の適否を判断すべきであるが、三福信組は、甲貸付けが行われた時点において、既に落合には三億八五〇〇万円の累積残高があったから、甲貸付けの分を合算すると、累積残高は六億八五〇〇万円となり、大口融資規制に大幅に違反することとなる。
(6) 甲貸付けは、被告龍治らが実質的に経営し、親族企業でもあるサンライズに年二・五パーセントの中間利息を取得させるために行われた。また、甲貸付けが、同時に三福信組の債権回収という目的から行われたものであることは事実であるが、既存の債権が焦げ付いているときは、追加融資の回収が困難となるのは明らかであるから、既存の債権の回収が危ぶまれるような状況においては、追加融資を行うにはより一層慎重を期すべきであって、甲貸付けが右のような目的で行われたからといって、違法性がないことにはならない。
(7) 三福信組自体は、経営悪化による資金欠乏状態にあった。
(二) 被告龍治、同龍彦及び同阿南
甲貸付けは、次のとおり違法なものではない。
(1) 迂回融資とは、資金を実際に必要とする者に直接融資することができない特段の事情等がある場合において、実体のない会社を経由して右の者に融資することであるところ、本件では、サンライズは実体のない会社ではなく、資金を実際に必要とする者であり、オズも同様である。したがって、甲貸付けは迂回融資ではない。
(2) 甲貸付けの目的は、土地購入及び開発であるから、貸付けを受けた者自身に資力がないことは、甲貸付けを違法なものと評価する根拠とはならない。むしろ、購入される土地及びその開発が、その尺度となるべきものである。
(3) 三福信組における甲貸付けに関する融資審査は、被告龍治らの専断によって行われたものではなく、融資審査規定に基づいて行われたものである。
また、本件山林は商品性があり、伊藤ショウに対する売却の確実性もあったし、兵庫県の開発許可も得ていた。さらに、甲貸付けが行われた当時、バブル崩壊の影響を受けて不動産不況の状態となっていたことは事実であるが、郊外地においてはなお不動産の流通が途絶えたわけではなかった。このように、本件計画は杜撰であったわけではなかった。
(4) 担保については、三福信組は、本件転抵当権を取得している。なお、本件転抵当権は、三福信組の新経営陣が新たに取得したものではなく、被告龍治らが理事長等の地位にあった当時、三福信組とサンライズとの間で、既に契約の締結自体は行われていた。
また、三福信組のような信用組合は、地域を限定せずに不特定多数の顧客を相手とする銀行とは異なり、地縁、人縁の相互扶助的閉鎖金融機関であり、また、その顧客層は、銀行によって掬いきれない顧客層であるし、右顧客層の社会的経済的地位を引き上げるところに信用組合の存在理由があり、右の存在理由が中小企業協同組合法の精神とするところでもある。
三福信組は、右のような信用組合の存在理由に忠実な事業活動を行うに当たり、必ずしも「物」を担保としなくても「人」を信頼して融資を実行するという活動を行ってきた。
したがって、甲貸付けは、三福信組の右のような理念に基づくものであり、十分な物的担保がなくても違法なものとはいえない。
(5) 甲貸付けの実行が、大口融資規制に違反していることは事実であるが、融資目的(不動産の購入、その規模)からやむを得ない融資であった。
また、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けのような、大口融資規制の基準を超える融資であっても、それは三福信組の前記理念に基づくものであるから、違法なものとはいえない。
(6) サンライズが商人として営業上の利益を確保するのは当然であるから、サンライズが中間利息を取得していたとしても、甲貸付けが違法なものとなるわけではないし、甲貸付けは、原告が主張するような、被告らが不当な利益を取得する目的で行われたものではなく、三福信組の純然たる債権回収の一環として行われたものである。
(7) 三福信組が、経営悪化による資金欠乏状態にあったことは争う。
(三) 被告龍彦
(1) サンライズは、損害保険の代理店並びに不動産仲介及び管理の各事業を何ら支障なく継続していた。また、サンライズには、支払手形をはじめとする買掛債務は一切なく、一般販売管理費の負担も微々たるものであったし、金融機関に対する債務も三福信組のみに対して負っている状態であったから、少なくとも他の債権者がサンライズに対して、債権回収のための行動に出ることはあり得なかった。さらに、落合は、三福信組の共鳴者であり、過去の取引関係及び人間関係から判断して、三福信組を裏切る懸念はまったくなく、債務の履行についても常に真摯に対応していた。
(2) 落合やオズに宅地開発の経験やノウハウがなかったことは認めるが、被告龍彦は、落合及びそのブレーンを信頼していた。
(四) 被告彰彦
原告の主張は、いずれも争う。
2 被告龍治らが行った乙貸付けを決定した行為は、違法なものといえるか。
(一) 原告
乙貸付けは、次の事実があるから、違法なものであり、したがって、被告龍治らが乙貸付けを決定した行為は、違法である。
(1) 乙貸付けが行われた当時、オズも落合も無資力であった。
<1> 落合は既に事実上破産状態であった。
<2> オズは、資産がない零細企業であるが、平成七年度には経常損失として八五三万二五七六円の赤字を計上していたから、資産からも営業収益からも借入金の返済が不可能であった。
<3> 三福信組が乙貸付けを行った当時は、落合及びオズに対し、合計六億七九〇〇万円の貸金が不良債権化していた。
(2) 事業計画及び融資審査が杜撰であった。
<1> 本件計画には当初から大きな危険があったが、乙貸付けが行われた当時は、伊藤ショウが本件山林の購入の希望を撤回していたから、なおさら本件計画の杜撰さが露呈していた。
<2> 乙貸付けの当時、追加融資を行うべき新たな材料は何もなかった。
(3) 無担保融資であった。
(4) 乙貸付けが行われた平成七年三月二三日当時の、三福信組の大口融資規制上の与信限度額は二億五七二五万五〇七四円であった。これに対し、右当時のオズに対する累積融資残高は、既に甲貸付けによって六億八五〇〇万円となっていた。
(5) サンライズらが違法な利益を取得していた。
オズは、乙貸付けに係る一億円から、前記二2(三)の貸付けに係る別途手数料として、サンライズに対し、三〇〇〇万円及び他に五〇〇万円を支払い、被告彰彦に対しても、少なくとも六〇〇万円をリベートとして支払った。このように、乙貸付けは、サンライズ及び被告彰彦に対して違法な利益を取得させる目的で行われたものであった。
(6) 三福信組は経営悪化による資金欠乏状態にあった。
(二) 被告龍治、同龍彦
乙貸付けは、次のとおり違法なものではない。
(1) サンライズが得ていた利益は違法なものではなく、商取引上の正当な利益である。
(2) 原告のその余の主張に対する反論は、いずれも争点1における右被告らの主張((二)、(三))と同じ。
(三) 被告彰彦
被告彰彦がオズから六〇〇万円のリベートを受領したとの主張は否認し、原告のその余の主張はいずれも争う。
3 被告龍治らが行った丙貸付けを決定した行為は、違法なものといえるか。
(一) 原告
丙貸付けは、次の事実があるから、違法なものであり、したがって、被告龍治らが丙貸付けを決定した行為は、違法である。
(1) 三福信組は、本件業務改善命令を受けていたにもかかわらず、大阪府商工部金融課との事前協議をしないまま丙貸付けを行った。
(2) オズも落合も無資力であった。
(3) <1> 丙貸付けの目的は、温泉の掘削資金であったが、温泉の湧出や商業的成功の見込みは極めて不確実であった。
<2> 三福信組は、前記(1) 記載の業務改善命令を受けたが、その後の大阪府の追加調査によって、既に経営破綻していたことや、右業務改善命令に違反していたことなどが暴露され、早晩業務停止命令を受けるのは必至であった。したがって、今後、多額の費用を擁する温泉掘削計画を完遂することができるはずがないし、その内金をここで融資しても無駄なものになることが明らかであった。
<3> このように、丙貸付けは、その内容が不合理であった。
(4) 無担保融資であった。
(5) 大口融資規制に反していた。
(6) 三福信組は経営悪化による資金欠乏状態であった。
(二) 被告龍治、同龍彦
丙貸付けは、次のとおり違法なものではない。
(1) 大阪府商工部金融課との事前協議は、三福信組の審査部の所管事項であったので、同審査部の事務上のミスはあったかも知れないが、被告龍治らは、右協議は行われたものと信じていた。
(2) 本件計画は、危険なものではない。本件山林の伊藤ショウに対する売却の確実性、本件転抵当権の設定、開発行為の許可、温泉掘削についての兵庫県知事の許可、温泉湧出可能性等を審査して、丙貸付けを行った。
(3) 原告のその余の主張に対する反論は、争点1における右被告龍治らの主張((二)、(三))と同じ。
4 被告龍治らの決定により三福信組が、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けを行ったことと三福信組が右各貸付金を全額回収することができなくなったこととの間に因果関係があるか。
(一) 原告
(1) 甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けは、いずれも前記1ないし3において主張したとおり、全額回収する見込みのない違法なものであり、右各貸付けを行ったことによって、その貸付金を全額回収することができなくなった。
(2) なお、平成七年の阪神大震災によって、本件山林を含む周辺地域の宅地需要が長期的に悪化したようなことはないし、しかも甲貸付けに係る三億一五〇〇万円は、平成六年一一月一七日に一億五〇〇〇万円を返済する約定であったにもかかわらず、まったく履行されていないのであるから、阪神大震災以前に、既に本件計画は頓挫していたのであって、阪神大震災は、右各貸付金の全額回収ができなくなったこととの間には何らの因果関係もない。
(二) 被告龍治、同龍彦及び同阿南
伊藤ショウは、平成七年の阪神大震災によって、その所有する多数の不動産の処分及び管理に支障が生ずるなど、不可抗力ともいえる事情が原因となって、本件山林の買受けが不可能となった。したがって、阪神大震災がなければ、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けは、いずれも順調に回収されていた貸付けであった。
したがって、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けと右各貸付金の全額回収が不可能となったこととの間には、因果関係はない。
(三) 被告龍彦
本件訴訟は、被告らの経営責任を問うための手段として、原告が主張するところのオズへの迂回融資が問題とされたに過ぎず、その前提として、将来あるべき本件訴訟を念頭において、原告のオズに対する債権回収は、原告としての損失の確定を急ぐ必要性から、恫喝まがいの異常な早さで行われた。そして、原告は、オズの意向に配慮することもなく、オズが管理し、又は所有するマンションの家賃の差押え等を実行するなどしたため、オズは、その信用を一挙に失墜させ、運転資金の枯渇を来たした。
このように、オズは当初から無資力であったわけではなく、原告の恣意的かつ性急な債権回収により、経営破綻を来たしたのである。
5 被告彰彦は、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けにつき、それぞれ主体的かつ積極的に関与したか。
(一) 原告
被告彰彦は、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けにつき、いずれも主体的かつ積極的に関与した。したがって、被告彰彦には、善管注意義務違反行為又は不法行為があったものである。
(二) 被告彰彦
被告彰彦は、三福信組の常務理事の地位にはあったが、その担当職務の内容は、一貫して総務畑であり、顧客に対する融資の担当責任者となったことはないし、その経営等に関与したこともない。また、甲貸付けに関する貸出稟議書(甲一六の1ないし5)で見る限りでも、被告彰彦が承認印を押捺しているのは、サンライズの弁済期限延長に関するもの(甲一六の4及び5)のみであり、乙貸付け及び丙貸付けに関する貸出稟議書には、被告彰彦の承認印は、まったく押捺されていない。
このように、被告彰彦は、甲貸付け、乙貸付け及び丙貸付けに関し、いずれもまったく関与していないか、又はほとんど関与していないから、善管注意義務違反行為又は不法行為のいずれをも行っていない。
6 損害額
(一) 原告
(1) 甲貸付けによる損害 三億円のうち二億二八四〇万円
本件転抵当権の目的物である本件山林の平成一〇年五月一五日当時の時価は七一六〇万円であるから、本件山林を換価することができたとしても、その損害は二億二八四〇万円を下らない。
(2) 乙貸付けによる損害 七二〇九万九八一〇円
乙貸付けに係る一億円のうち残金は九七九〇万円であるが、そのうちの二五八〇万〇一九〇円は三福信組のオズに対する既往融資の元金利息の弁済に充てられた。
(3) 丙貸付けによる損害 四〇〇万円
(二) 被告龍治、同龍彦及び同阿南
(1) 甲貸付けについては、本件転抵当権が設定されているから、損害はない。また、仮に本件山林の価値が下落していたとしても、それは、融資当時には、被告龍治、同龍彦及び同阿南において予見することが不可能であったから、右下落相当額は通常生じ得る損害には当たらない。
(2) 乙貸付け及び丙貸付けによる損害については、いずれも争う。
(三) 被告彰彦
いずれも争う。
7 本件事業譲渡契約は、有効なものといえるか。
(一) 被告龍治、同龍彦及び同阿南
本件事業譲渡契約に関し、三福信組内部では、総代会による議決が行われたが、総代会による議決をした場合には、その議決の日から一〇日以内に組合員に議決の内容を通知しなければならない(中小企業等協同組合法五五条の二第二項)。しかし、三福信組は、四〇〇〇名以上存在している組合員のうち、半数以上に対して通知を怠っていた。
したがって、右総代会決議は無効であり、ひいては本件事業譲渡契約は無効である。
(二) 原告
本件事業譲渡契約に関する三福信組における総代会決議が行われた当時、三福信組の組合員が四〇八八名いたが、そのうち一一八〇名については、三福信組の前身である神農商工組合当時から、郵便物を配達することができなくなっていたため、各種通知の関係においては、返送されてくる宛先に対して郵送をしても無駄となることから、無視するという取扱いが行われていた。したがって、右総代会決議の結果を通知すべきであるのは、二九〇八名の組合員に対してである。
原告は、右の二九〇八名のうち二五七〇名に対しては、多少の期間超過等の軽微な瑕疵はあったにせよ、通知を完了した。したがって、通知は適法に行われているから、本件事業譲渡契約は有効である。
また、仮に通知が適法にされていないとしても、右通知がされなかったことをもって直ちに右総代会決議の効力が否定されるわけではないし、その瑕疵は軽微であって、実質的に組合員に不利益を与えたわけでもなく、しかも本件事業譲渡契約の事実は、主要な新聞各紙で報じられたから、組合員の権利行使(中小企業等協同組合法五五条の二第三項)のための実質的な手続保障は全うされていた。
8 本件債権譲渡契約は、有効なものといえるか。
(一) 被告龍治及び同阿南
右事実を本件事業譲渡契約とともに選択的に主張することは、訴訟法上許されない。
(二) 原告
争う。
第三争点に対する判断
一 争点1から3まで(本件各貸付け及び被告らの行為の違法性)のうち本件各貸付けの違法性について
1 証拠によれば、以下の事実が認められる。
(一) 甲貸付けについて
(1) 甲貸付けについては、平成六年五月一八日に、三福信組において決裁が下りたが、甲貸付け実行前の段階で、三福信組はサンライズに対して、既に五億五五〇〇万円の貸付残高を有しており、甲貸付け実行後のサンライズに対する貸付残高は八億七〇〇〇万円になった。
それに対して、三福信組がサンライズから確保していた担保は、甲貸付け実行前の段階で、定期預金一〇〇〇万円、有価証券二億〇六〇七万円の合計二億一六〇七万円であった。(甲一六の1、被告龍彦)
(2) 甲貸付けに当たり、三福信組とサンライズは、平成六年五月一八日、本件転抵当権の設定契約を締結したが、転抵当権の設定登記は留保することとした。(甲一六の1、七八、乙一〇、被告龍彦)
(3) サンライズのオズに対する本件抵当権の被担保債権額は三億円であり、本件転抵当権の被担保債権額は三億一五〇〇万円であった。(甲三四の1ないし12)
(4) 一方、本件山林の、平成六年五月一五日現在における鑑定評価額は、七三八〇万円であった。(甲五八)
(5) 甲貸付けの実行の段階では、三福信組は、本件山林をオズが宅地造成した後に、これを転売する相手について、オズの落合から、伊藤ショウがこれを買い受けるという話は聞いていたものの、伊藤ショウに対して買受の意思の有無やその時期について、直接確認するなどの措置はとっておらず、オズに対してその点が明らかになるような書類を提出するよう求めたこともなかったところ、平成六年一〇月に初めて、伊藤ショウから本件山林の買付証明書が発行された。もっとも、右買付証明書は、本件山林が宅地造成されることを前提とするものであったところ、オズは、右宅地化の時期や売却の時期について、具体的な根拠に基づく明確な見通しを持っていなかった。(甲七四、乙六、被告龍彦、証人落合)
(二) 乙貸付けについて
(1) 乙貸付けについては、平成七年三月二三日、三福信組において決裁が下りたが、三福信組は、乙貸付け以前にはオズから担保を徴求しておらず、乙貸付けに当たって新たに担保を徴求することもなかった。(甲一八の1、被告龍彦)
(2) 乙貸付けの審査に当たっては、稟議書に伊藤ショウが本件山林を造成後に購入する旨の前記平成六年一〇月付の買付証明書が添付されていた。(甲一八の1、七四、乙六)
(3) なお、オズはサンライズから一億円の融資を受けることを前提に、平成六年一二月二一日、サンライズに対して、本件山林に被担保債権額一億円の抵当権の設定登記をした。(甲三四の1ないし12、証人落合)
(三) 丙貸付けについて
(1) 丙貸付けについては、平成八年一〇月三一日、三福信組において決裁が下りたが、丙貸付け実行の前の段階で、三福信組は、オズに対し、乙貸付けの残高九七九〇万円を含めて、既に一億五三六〇万円の貸付残高を有していた。
それに対して、三福信組がオズに対して有していた担保は、引当担保価額一億三〇〇〇万円の根抵当権であった。(甲二〇)
(2) 丙貸付け実行に当たって、三福信組はオズから、新たな担保を徴求しなかった。(甲二〇)
(四) オズの経営状態について
オズは、第二期(平成五年八月一日から同六年七月三一日まで)の決算において、二六八万九二五四円の損失を計上しており、第三期(同六年八月一日から同七年七月三一日まで)の決算においては、一二万五二六七円の利益を計上したものの、第四期(同七年八月一日から同八年七月三一日まで)において、八七三万八五七六円の損失を計上した。(甲一三の1ないし3)
(五) 三福信組の同一人に対する貸出限度額について
三福信組の大阪府信用組合指導要領に基づく同一人に対する貸出金の限度額は、出資の額、協同組合による金融事業に関する法律施行令二条一号に規定する組合員勘定に属する準備金の額及び同条二号に規定する引当金の額の合計額の一〇〇分の二〇に相当する金額と四億円とのいずれか低い額であるところ、第三八期(平成五年五月一三日の総代会において準備金の額が確定)の決算によると、右貸出金の限度額は二億四六六〇万六五一四円であり、第三九期(平成六年五月二四日の総代会において準備金の額が確定)の決算によると、二億五七二五万五〇七四円であり、第四〇期(平成七年五月二四日の総代会において準備金の額が確定)の決算によると二億七六九四万七五五六円であり、第四一期(平成八年五月二二日の総代会において準備金の額が確定)の決算によると、三億〇三四二万九七六二円である。(甲九の6ないし9、二一)
(六) 本件計画の進行について
(1) オズは、篠山町長に対し、平成七年三月一日、本件計画を進行させるに当たり、同町の条例に基づき、本件山林の開発行為事前協議申出書を提出した。(乙一二の1)
(2) これに対し、篠山町長は、オズに対し、平成七年三月二八日、右申出を認めるとともに、引き続き開発行為許可申請等を行うよう通知した。(乙一二の2)
(3) オズは、篠山町長に対し、平成七年九月五日、本件山林の開発行為許可申請書を提出した。(乙一二の3)
(4) オズと篠山町長は、平成七年一〇月三一日、本件山林の開発事業についての協定を締結した。(乙一二の6)
(5) 篠山町長は、オズに対して、平成七年一一月七日、本件山林の開発行為を許可した。(乙一二の7)
(七) 三福信組の経営状態等について
(1) 三福信組は、平成五年九月一〇日を検査基準日とする大阪府による定例検査の結果、「総資産をもって総負債を償えない状態となり、正味自己資本をき損する結果を招いている」などと指摘され、実質的に債務超過状態に陥っていた上、右検査においては、大口融資規制に違反する貸付の急増が指摘されるとともに、この点が遵法精神の欠如であり、経営姿勢として重大な問題であると指摘されていた。(甲七六の6)
(2) また、三福信組は、平成六年七月一二日を検査基準日とする大阪府による定例検査によっても、「正味自己資本が約六億円き損する結果となっている」と指摘され、債務超過の状態が悪化していた上、右検査においては、大口融資規制に違反する貸付けが更に行われたことが、誠に遺憾であると指摘されていた。(甲七六の7)
(3) さらに、三福信組は、平成七年六月六日を検査基準日とする大阪府による定例検査の結果、「正味資本は約二八億円も、き損している」と指摘され、債務超過の状態が更に悪化していた上、右検査においては、大口融資規制に違反する貸付けが更に行われたことが、極めて遺憾であると指摘されていた。
2 右認定の事実及び前記争いのない事実等によれば、まず、甲貸付けについて以下のように判断できる。
(一)(1) まず、三福信組のサンライズに対する貸付残高(五億五五〇〇万円)と徴求していた担保(二億一六〇七万円)との関係は、甲貸付けが実行される前の段階で、既に大幅な担保割れの状態(三億三八九三万円の担保不足)であったこと、甲貸付け実行当時の、三福信組の大口融資規制に基づく同一人に対する貸出金の限度額は、二億四六六〇万六五一四円であり、サンライズに対する貸付けは、甲貸付けを実行する前の段階から既に限度額を超過していたこと、及び甲貸付けを実行した時点で、三福信組自体が既に債務超過の状態にあったことからすれば、三福信組が、新たな融資を実行するに当たっては、債権回収の確実性について通常以上に慎重な審査が必要であったというべきである。
なお、大口融資規制は、金融機関の資産運用における安全性を確保するために設けられたものであるから、右規制に違反したからといって、直ちに当該融資が違法となるわけではないとしても、右のとおり、三福信組が新たな融資を実行するに当たっては、通常の融資以上に、債権回収の確実性について慎重に審査する必要があると解すべき一事情になるものというべきである。
(2) それにもかかわらず、三福信組が、甲貸付けに際して徴求した担保は、甲貸付けに係る貸付額である三億一五〇〇万円に満たない被担保債権額を三億円とする抵当権に対する転抵当権であったばかりか、甲貸付けが行われた当時の本件山林の時価は、七三八〇万円に過ぎなかった。したがって、本件転抵当権は、甲貸付けに対する担保として不十分であった。
(二)(1) また、甲貸付けに係る貸付金はサンライズからオズに貸し付けられ、オズは右貸付金によって本件山林を買い受けていること、三福信組は、甲貸付け実行前の段階で既にサンライズに対して五億五五〇〇万円もの貸付残高を有していたこと、及びサンライズは従業員が一名しかいない会社であることからすれば、甲貸付けの回収はサンライズの通常の営業活動による利益からは期待できず、本件計画が成功しオズが得る本件山林の転売利益からサンライズが貸付金を回収し、その回収した資金から三福信組が甲貸付けを回収することしか期待できないことは明らかであるから、甲貸付けの回収の確実性を検討するに当たっては、本件計画の事業計画としての実現可能性について、慎重な審査が必要であったというべきである。
(2) それにもかかわらず、甲貸付け実行の段階では、伊藤ショウから本件山林の買付証明書すら提出されていなかった上、三福信組において、本件山林の実勢価格や造成に要する期間、費用等について独自の調査をした事実も認められないから、十分な融資審査がなされたものとは到底認められない。
また、本件計画の事業計画の実体としても、甲貸付けの時点では、オズと伊藤ショウとの間で、本件山林の売買契約が成立していた事実は認められず、仮にオズが本件山林の宅地造成を完了した後に伊藤ショウがこれを買い受けるとの合意は成立していたとしても、オズにおいて、伊藤ショウが本件山林を買い受ける前提となるべき本件山林の宅地造成を完了できる保証は何もなかったのであるから、この時点での融資は、債権回収の確実性に対する配慮を疎かにしたものと言わざるを得ない。
(三) 以上の事情を総合すると、甲貸付けは、融資の回収ができなくなる危険性を多分にはらんでいるにもかかわらず、既に債務超過の状態にあった三福信組において、十分な審査を経ることなく、あえて実行されたものであり、組合員から集めた資金を安全確実に運用すべき責務を負う信用組合の行う融資としては、到底許容されるものではなく、違法な融資であったと言わざるを得ない。
3 次に、1で認定した事実及び前記争いのない事実等によれば、乙貸付けについて以下のように判断できる。
(一)(1) 乙貸付けが実行された当時、三福信組自体の債務超過の額が更に拡大しており、経営状態がより悪化していたのであるから、新たな融資を実行するに当たっては、これまで以上に債権回収の確実性について、慎重に審査する必要があったものと認められる。
(2) にもかかわらず、乙貸付けは、三福信組において、オズから何の担保も徴求することなく実行された。
なお、乙貸付けが実行される前に、オズは、サンライズに対して、平成六年一二月二一日、本件山林に被担保債権額一億円の抵当権を設定し、登記しているが、右抵当権について、三福信組の転抵当権が設定されているわけではないから、三福信組がオズから担保を徴求していたことにはならないことは明らかである。
(二)(1) また、乙貸付けが実行された当時、オズの経営の収支は損失を計上するか、利益を計上したとしても僅かな額に過ぎなかったことからすれば、乙貸付けがオズの通常の営業利益から返済されることは期待できなかったものと認められる上、乙貸付けは、本件計画を実行することに伴う開発費用として融資されたものであるから、三福信組は、乙貸付けの回収の確実性を検討するに当たっても、本件計画の事業計画としての実現可能性について、より一層慎重な審査が必要であったというべきである。
(2) にもかかわらず、乙貸付けの段階においては、オズから篠山町長に対して、本件山林の開発行為事前協議申出書が提出されていたに過ぎず、将来右開発行為が許可されるかどうか不透明であり、本件計画はまだ十分な実現の見通しも確実性も有していなかったものと認められる。
また、乙貸付けの審査に当たって、伊藤ショウの発行した買付証明書が稟議書に添付されていた事実は認められるが、甲貸付けについての判示と同様、オズと伊藤ショウとの間で、本件山林の売買契約が成立していた事実は認められず、仮にオズが本件山林の宅地造成を完了した後に伊藤ショウがこれを買い受けるとの合意は成立していたとしても、オズにおいて、伊藤ショウが本件山林を買い受ける前提となるべき本件山林の宅地造成を完了できる保証は何もなかった上、右買付証明書が発行されたのは、その記載からみれば、乙貸付けから半年程度前の平成六年一〇月付であり、乙貸付けの当時も伊藤ショウが本件山林を買い付ける意思を有しているとは限らないのであるから、右買付証明書が提出されたからといって、乙貸付けの実行に当たっての融資審査が十分であったということはできない。
(三) 以上の事情を総合すると、乙貸付けについても、甲貸付け以上に融資の回収ができなくなる危険性を多分にはらんでいたにもかかわらず、債務超過額の拡大していた三福信組において、十分な審査を経ることなく、あえて実行されたものであり、信用組合の行う融資としては、到底許容されるものではなく、違法な融資であったと言わざるを得ない。
4 1で認定した事実及び前記争いのない事実等によると丙貸付けについては以下のように判断できる。
(一)(1) まず、三福信組のオズに対する貸付残高(一億五三六〇万円)と徴求していた担保(一億三〇〇〇万円)との関係は、丙貸付けが実行される前の段階で、既に担保割れの状態であったこと(稟議書上も二三六〇万円の担保不足)、及び丙貸付けが実行された当時、三福信組は本件業務改善命令を受けていた上、債務超過の額はますます拡大しており、経営状態の悪化が深刻化していたことからすれば、三福信組が、新たな融資を実行するに当たっては、大阪府商工部金融課と事前協議を行うとともに、通常以上に債権回収の確実性について、より厳重な審査をする必要があったものというべきである。
(2) それにもかかわらず、丙貸付けは、何の担保も徴求することなく実行された。
(二) そして、丙貸付けの段階では、本件山林の開発行為の許可は下りていたものの、甲貸付けや乙貸付けが実行されたころと比較して、本件計画の実現の見通しや可能性が増したとまでいうことができる程の事情は認められない。
(三) 以上の事情を総合すると、丙貸付けについても、甲貸付け及び乙貸付け同様、融資の回収ができなくなる危険性を大いにはらんでいたにもかかわらず、経営状態の深刻な悪化を招いていた三福信組において、十分な審査を経ることなく、あえて実行されたものであり、信用組合の行う融資としては、到底許容されるものではなく、違法な融資であったと言わざるを得ない。
5 なお、被告らは、本件各貸付けは、信用組合の存在理由に忠実な事業活動を行うにあたり、「人」を信頼して融資を実行するという三福信組の理念に基づくものであり、物的担保が不足していたり、大口融資規制に違反していても、違法ではないと主張する。
しかしながら、三福信組も金融機関である以上、融資を実行するかどうかを検討するに当たっては、その回収可能性を十分に審査すべきことは当然であって、「人」を信頼して融資するといっても、その信頼性の判断は、主観的な事情ではなく、客観的かつ合理的な根拠に基づくものであることを要するのも当然であるところ、三福信組が、本件各貸付けの実行に当たっての審査において、右のような観点から信頼性の判断を行ったと評価するに足りる事情は認められない。
二 争点4(本件各貸付けと損害との因果関係)について
被告らは、平成七年に阪神大震災が発生したことによって、伊藤ショウによる本件山林の買付けが不可能になったのであり、本件各貸付けが回収できなくなったことは不可抗力であって、本件各貸付けと右貸付金の全額回収が不可能になったこととの間には、因果関係はないと主張する。
しかしながら、そもそも、本件各貸付けにおける融資審査が極めて不十分であったことは前記認定のとおりであって、貸付け当初から回収不能になる危険性を多分にはらんでいたものである上、阪神大震災の発生によって伊藤ショウによる本件山林の買付けが不可能になったことを認めるに足りる証拠もないから、本件各貸付けと右各貸付けを全額回収することができなくなったこととの間には、因果関係が認められることは明らかであり、被告らの主張は採用することができない。
なお、被告龍彦は、原告のオズに対する性急な債権回収によって、本件各貸付けの回収が不可能になったものであると主張するが、原告が、三福信組から事業の譲渡を受ける本件事業譲渡契約以前から、既に本件各貸付けの返済が滞っていた(甲一四の1、2、弁論の全趣旨)のであるから、右主張も採用できない。
三 争点1から3までのうち被告らの行為の違法性及び争点5(被告彰彦の本件各貸付についての関与のあり方)について
1 証拠によれば、以下の事実が認められる。
(一) 三福信組の定款においては、「理事長はこの組合の業務を総轄し、専務理事は理事長を補佐して業務を執行し、常務理事は理事長及び専務理事を補佐して業務を処理する」と定められている。(甲七七、九九)
(二) 甲貸付け実行当時、三福信組のサンライズに対する与信額は、甲貸付けの実行によって八億七〇〇〇万円になり、甲貸付けを実行するかどうかの判断は、当時の三福信組の貸出決裁権限規程によると、理事長専決事項に当たる。(甲一六の1、六二の3、被告彰彦)
(三) 乙貸付け実行当時、三福信組のオズに対する与信額は、乙貸付けの実行によって一億円になり、乙貸付けを実行するかどうかの判断は、当時の三福信組の貸出決裁権限規程によると、専務理事専決事項に当たる。(甲一八の1、六二の4、被告彰彦)
(四) 丙貸付け実行当時、三福信組のオズに対する与信額は、丙貸付けの実行により一億五七六〇万円となり、丙貸付けを実行するかどうかの判断は、当時の三福信組の貸出決裁権限規程によると、専務理事専決事項に当たる。(甲二〇、六二の7、被告彰彦)
(五) 三福信組においては、実際の事務処理としては、専務専決の融資案件については、稟議書等の書類が営業店から審査部を経由して被告龍彦に提出され、被告龍彦がその決裁をした後、一〇日分ずつまとめられて、被告龍治に報告されていた。
これに対し、理事長専決事項である融資案件については、稟議書等の書類は、営業店から審査部、被告龍彦を経由して、被告龍治に提出され、被告龍治が決裁をしていた。(甲九四)
(六) 甲貸付けの貸出稟議書には、被告龍治が押印した。また、乙貸付けの貸出稟議書には被告龍治及び被告龍彦が押印し、丙貸付けの貸出稟議書には、被告龍彦が押印した。(甲一六の1、一八の1、二〇)
(七) 一方、被告彰彦は、落合から本件計画についての融資の相談を受け、被告龍彦又は営業部へ申込むよう勧めたことがあったほか、本件各貸付けの当時、総務と経理の総括責任者として、資金繰りの担当をしており、大口の融資については、審査部から被告彰彦に対して資金繰りが可能か否かについての照会があるのが通常であった。(甲九四、証人落合、被告彰彦)
2 右認定事実及び一1で認定した事実によれば、次のように判断することができる。
(一) 被告龍治の行為の違法性について
被告龍治は、理事長として三福信組の業務全般について総轄する責任を負っていたのであり、しかも本件各貸付け当時、三福信組の債務超過の状況は悪化の一途をたどっていたのであるから、自ら直接に決裁する貸付けについて、債権回収の確実性について検討し、十分な確実性が認められない場合には融資を実行しないとの判断をすべき義務を負っていたのはもちろんのこと、自らが直接には決裁しない貸付けについても、不適切な貸付けが実行されないよう他の理事を監視する義務を負っていたものと認められる。
にもかかわらず、被告龍治は、甲貸付けについては、貸出稟議書に自ら決裁印を押して、違法な貸付けを実行するとの判断をし、乙貸付についても稟議書に押印して、違法な貸付を行うという被告龍彦の判断を追認したものであるし、丙貸付けについては、決裁権者である専務理事の被告龍彦に対する監視を怠り、よって違法な貸付けを実行させたものであるから、本件各貸付けについて理事長としての善管注意義務を怠ったものであると認められるし、右各行為は、三福信組に対する不法行為を構成するというべきである。
(二) 被告龍彦の行為の違法性について
被告龍彦は、三福信組の専務理事として理事長を補佐して業務を執行する義務を負っていたのであるから、理事長を補佐するという点からの制限はあるものの、被告龍治と同様の義務を負っていたものと認められる。
にもかかわらず、被告龍彦は、甲貸付けについては、理事長専決である案件であったため、自ら決裁したものではないが、前記の事務処理の流れからすれば、被告龍治が決裁する以前に、違法な貸付けの実行を容認していたものと認められ、また、乙貸付け、丙貸付けについては、自らこれを実行するとの判断をし、違法な貸付けを実行したのであるから、本件各貸付けについて理事としての善管注意義務を怠ったものであると認められる。
また、右各行為は三福信組に対する不法行為を構成するというべきである。
(三) 被告彰彦の行為の違法性について
被告彰彦は、三福信組の常務理事として理事長及び専務理事を補佐して業務を処理する義務を負っていた上、総務と経理の総括責任者として、三福信組の債務超過の状況や大阪府の検査に基づく指摘事項については当然認識していたと認められるので、理事長及び専務理事の補佐という点からの制約はあるとしても、被告龍治及び被告龍彦と同様の監視義務を負っていたものと認められる。
そして、被告彰彦は、本件各貸付けについて、これを実行するかどうかを判断するという職務を直接行ったわけではないとはいえ、事前に落合から本件計画に対する融資について相談を受け、融資申込みを勧めていたこと、大口融資案件については審査部から被告彰彦に対し資金繰りの照会が行われていたことなどを総合考慮すると、少なくとも本件各貸付けが実行されることを、事前に認識し得る立場にあったものと認めるのが相当である。
にもかかわらず、被告彰彦が、本件各貸付けの実行を看過したのは、他の理事の行為に対する監視を怠り、よって違法な貸付を実行させたものというべきである。
したがって、被告彰彦は、本件各貸付けについて理事としての善管注意義務を怠ったものと認めるのが相当であり、また、右各行為は三福信組に対する不法行為を構成するというべきである。
なお、被告彰彦は、本件各貸付けに関し、全く関与していないか、又はほとんど関与していないから、善管注意義務違反又は不法行為の責任を負わない旨主張するが、右のとおりであるから、採用できない。
(四) 被告阿南の責任について
前記甲貸付けの違法性について判示したとおり、サンライズは、三福信組から甲貸付けとして三億一五〇〇万円を借り入れ、右金員をもって、オズに対して三億円を貸し付けているが、サンライズの当時の三福信組からの借入金残高や業務活動の状況に照らすと、サンライズが通常の営業活動によって、甲貸付けによる借入金を返済することは不可能であったと認められ、甲貸付けによる借入金の返済のためには、オズへの貸付けの回収が確実になされることが必要であったと言わざるを得ない。
したがって、被告阿南は、サンライズの取締役として、甲貸付けを受けるに当たっては、オズへの貸付けの回収の確実性について十分に検討し、確実に回収できないと判断される場合には三福信組からの甲貸付けを受けること自体を中止すべき義務を負っていたというべきである。
しかるに、被告阿南は、サンライズの取締役として、オズから本件山林についての抵当権の設定を受けたものの、それ以上に貸付けの回収の確実性について検討を行ったと認めるに足りる証拠はない。そして、前示のとおり、本件山林の当時の鑑定評価額が七三八〇万円に過ぎなかったことに照らすと、オズへの貸付けの回収の確実性、すなわち、本件計画の事業計画としての実現可能性について慎重な検討を行わないまま甲貸付けを受けた被告阿南には、サンライズの取締役として、三福信組から甲貸付けを受けることを中止すべき義務に違反しており、右任務懈怠につき重過失が認められるというべきである。
したがって、被告阿南は、甲貸付けの返済が受けられなくなり、返済不能額相当の損害を被った三福信組に対して有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償責任を負うものと言わざるを得ない。
また、重過失に基づく被告阿南の右行為は、三福信組に対する不法行為を構成するというべきである。
四 争点6(損害額)について
前記争いのない事実等のとおり、甲貸付けの現在の残高は三億円、乙貸付けの現在の残高は九七九〇万円、丙貸付けの現在の残高は四〇〇万円であり、サンライズ又はオズから右貸金の残高を回収することは不可能である。
そして、前記認定のとおり、平成六年五月一五日当時の本件山林の時価は七三八〇万円であり、平成一〇年五月一五日当時の本件山林の時価は、七一六〇万円であると認められる。
したがって、甲貸付けによって発生した損害の額については、甲貸付けを実行した当時、三福信組が本件転抵当権の設定登記を経ているものの、これを換価したところで、平成一〇年五月一五日当時の本件山林の時価を上回る額で換価できるとは考えがたいことから、少なくとも現在の貸付残高三億円から七一六〇万円を控除した二億二八四〇万円については、甲貸付けと相当因果関係のある損害であると認められる。
乙貸付け及び丙貸付けについても、現在、オズによる返済が不可能であることから、現在の貸付残高をもって、右各貸付けと相当因果関係のある損害であると認められる。
五 争点7、8(本件事業譲渡契約、本件債権譲渡契約の有効性)について
前記争いのない事実等のとおり、三福信組は株式会社整理回収銀行に対し、平成一一年三月一六日、本件訴訟の対象となっている各損害賠償請求権を譲渡し、本件各被告に、平成一一年三月二七日右譲渡の通知が到達したのであるから、本件事業譲渡契約の有効性について判断するまでもなく、右損害賠償請求権が株式会社整理回収銀行を経て原告に帰属したことが認められる。
なお、右債権譲渡の事実を本件事業譲渡契約とともに選択的に主張することは許されないと被告龍治及び同阿南は主張するが、実体的には両立し得ない二つの請求原因を同時に選択的に主張できることは、訴訟法上、当然のことであり、右主張を採用することはできない。
第四結論
以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法六一条を適用し、仮執行の宣言については同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村隆次 裁判官 長野勝也 裁判官 村川主和)